母乳に含まれている善玉菌の1種で、健康長寿を支えてくれる乳酸菌です。正式名称は「ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)」。科学的に有益性があると証明されている微生物のなかでも、とくに優れた効果を発揮します。
発見されたのは、南アメリカのアンデス山脈にある村。そこで暮らしていたペルー人女性の母乳からロイテリ菌を検出したそうです。のちに、日本人女性の口腔内からも、分離した菌株が見つかっています。免疫力アップはもちろん、病原菌の駆除を行い、腸を強くするのがロイテリ菌の大きな特徴です。
ロイテリ菌ATCC 55730の効果を調べるべく、過敏性腸症候群(IBS)患者を対象に「前向き無作為化二重盲検プラセボ比較試験」が行われました。
下痢や便秘の症状がある、平均年齢46歳の計54名が被験者となり、ロイテリ菌含有のタブレットを投与するグループと、同じ形状のプラセボを投与するグループに分類。各グループに対してタブレットやプラセボを6ヶ月にわたって毎日投与する試験が行われ、ロイテリ菌を投与したグループとプラセボを投与したグループの変化が見守られました。
試験期間終了後は、どちらのグループでも症状の改善が確認されました。統計的に見て大きな差異はなかったものの、ロイテリ菌を投与したグループでは便秘の頻度とオナラの回数が減少したと報告されています。
ただし、この研究ではプラセボ効果が大きくはたらいたことや、患者の症状に統一性がなかったことから、ロイテリ菌の優位性については明言できないようです。[注1]
母乳離れしている6~12ヶ月の幼児44名を対象に、慢性便秘に関する試験が行われました。研究に用いられたのはロイテリ菌DSM 17938。効果を調べるため、無作為化二重盲検プラセボ比較での試験が採用されました。
ロイテリ菌を投与する幼児と、プラセボを投与する幼児に無作為に分け、8週間にわたって継続的に投与。幼児へのロイテリ菌の投与量は1日1回、食事後にオイルドロップ5滴です。
1日あたりの排便回数の増減が効果測定の対象となりました。
試験開始時、ロイテリ菌を投与していたグループの排便頻度は2.82回でした。しかし、8週間後には4.77回に増加したことを確認。プラセボを投与していたグループと比較しても、排便頻度は増加していました。
また、ロイテリ菌を投与していたグループの事前調査では、試験前に「便が硬い」と回答していた方が22名中19名と86.4%でした。それが2週間目には11名が便の硬さを感じなくなり、最終的に4名まで減少したという報告も。
この研究では、毎日ロイテリ菌を摂取することで、排便回数が増加することを証明しました。幼児の慢性便秘を治療するうえでプロバイオティクスを利用することは、安全面を考慮しても魅力的な選択肢と言えるでしょう。[注2]
成人のHIV感染患者およびAIDS患者に見られる下痢の症状に、ロイテリ菌が影響を与えるかを検証するため、前向き非盲検試験が行われました。
対象となったのは、軽度・中等度の脱水症の治療を受けている100名のHIV感染患者です。年齢は19歳~62歳。
それぞれ無作為に、ロイテリ菌を毎日摂取するグループとそうでないグループに分けられました。試験期間中も脱水症の治療は継続。かさねて、被験者のなかには細菌・真菌・寄生虫による感染と診断された下痢の治療を受けている方も。
この研究の効果測定は、ロイテリ菌が腸管異常に作用し、下痢の継続期間を変化させるかどうかが鍵となっていました。
ロイテリ菌を摂取していたグループの下痢の継続期間が2.08日であったのに対し、摂取していないグループは2.92日という結果が出ました。
試験の経過を詳しく確認すると、試験開始の1日後には下痢から解放された被験者が現れています。ロイテリ菌を摂取したグループからは18名で36%、摂取していないグループからは6名で12%でした。
この結果から、ロイテリ菌は摂取することで下痢の期間を短縮する効果があると結論づけられています。HIV感染患者における胃腸の感染症では、抗菌治療の一助として、ロイテリ菌摂取は有効な手段と言えるでしょう。[注3]
排便や月経などとは関連のない腹痛が続く場合、機能性腹痛(FAP)と診断される場合があります。ローマⅢ基準をもとに6歳から16歳までの子ども60名が被験者となり、機能性腹痛に変化がみられるのか検証する研究が行われました。
被験者は無作為にロイテリ菌DSM17938を摂取するグループと、プラセボを摂取するグループに分類。研究チームが行ったのは、4週間の経過観察および試験期間終了後の追跡調査です。
被験者に痛みの度合いや頻度を記録してもらい、検証しています。
試験開始から4週間目の記録を、ロイテリ菌を摂取したグループとプラセボを摂取していたグループで検証した結果、痛みの激しさが低くなったのはロイテリ菌を摂取したグループでした。プラセボを摂取したグループにはあまり変化が見られなかったとのこと。
8週間後の追跡調査でも、ロイテリ菌を摂取したグループではさらに痛みの度合いが著しく減少したと報告されています。
この結果により、ロイテリ菌の摂取で激しい腹痛が少なくなり、摂取を中断しても効果はある程度持続することが判明しました。[注4]
ただし、どんなに素晴らしい効果が報告されている乳酸菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。いろいろ買ってみて試してみる、というのも楽しいかもしれませんが、自分に合う菌と出会うためには、それなりにお金と時間をかける必要があります。
そこで、自分に合った菌を探すのに役立つツールとして「乳酸菌相性チェッカー」を用意してみました。乳酸菌選びで迷っている方は、ぜひ活用してみてください!
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?