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酪酸菌NT株

ヒトから分離された菌である「酪酸菌NT株」は、腸内環境を整えたり、免疫システムを調整したりする働きを持っています。近年では、この「酪酸菌」が長寿に大きく関わっているという報告も。いったい酪酸菌NT株とは、どのような菌なのでしょうか。さまざまな研究報告から、その効果に迫ってみることにしましょう。

酪酸菌NT株とは

7菌種・400株もの菌株ライブラリーを保有する日東薬品工業株式会社。ヒトから分離されたという酪酸菌NT株も、同社が保有している菌のひとつです。

腸内環境を酸性に傾ける

酪酸菌は「酪酸」と呼ばれる短鎖脂肪酸を作り出す働きを持っています。この短鎖脂肪酸は難消化性の炭水化物を腸内細菌が分解することで産生されます。この時に作り出される酪酸は、腸内の環境を酸性に傾けて、感染症が起こりにくい環境を作るという働きがあります。

また、酪酸生菌は、腸管の免疫システムを調節することにより、炎症を抑制したり、腸粘膜機能を正常化したりという働きが報告されています。

酪酸菌とは

酪酸菌は腸内細菌の一種で、乳酸菌やビフィズス菌に次ぐ「第三の善玉菌」と呼ばれるものです。酪酸菌は、「芽胞」と呼ばれる強い外殻を持っていることが大きな特徴で、酸やアルカリなどに囲まれた環境から自らを守っています。

酪酸菌は、腸管内でデンプンやアミノ酸を利用して多くの有益な物質を作るという働きを持っています。この時に生み出された物質によって腸管内で善玉菌の働きをサポートし、悪玉菌の繁殖を抑制するのです。

酪酸菌と乳酸菌の違い

では、乳酸菌とはどんな違いがあるのでしょうか。

もっとも大きなところでは、酪酸菌は「芽胞」を持っていることが挙げられます。乳酸菌はその多くが胃液などで死滅してしまいますが、芽胞という強いバリアを持っている酪酸菌は、生きたまま胃酸を通過して腸内で働くことが可能なのです。

酪酸菌NT株の効果に関する研究

日東薬品工業株式会社が保有している酪酸菌NT株の働きについて、さまざまな研究が行われています。その中の一つである、腸管出血性大腸菌との関連についての研究や、健康長寿には酪酸菌が大きく影響している、という内容の報告についてご紹介します。

腸管出血性大腸菌のベロ毒素を抑制する働き

一部の腸管出血性大腸菌に感染すると、人のお腹の中では「ベロ毒素」という毒素が発生します。このベロ毒素は、激しい下痢や腹痛を引き起こす原因です。

腸管出血性大腸菌に感染した場合には、抗生物質の投与することで治療が行われます。しかし、腸管出血性大腸菌は死滅する際に大量のベロ毒素を出すという特性から、抗生物質の投与には否定的な意見も。そこで、酪酸菌NT株が腸管出血性大腸菌にどのような影響を及ぼすのかを確認する研究が行われました。

腸管出血性大腸菌の培養系にホスホマイシンを投与すると、菌数の低下し、それに伴って、ベロ毒素のうち VT2は多量に放出され、一方で、酪酸菌NT株を一緒に培養するとVT2の遊離を1/8に抑制しました。

ホスホマイシンの作用に関わりなく、腸管出血性大腸菌とヒト常在大腸菌の混合培養に酪酸菌NT株を追加、共存させることでVT2の遊離をより強く抑制できることがわかりました。

引用元:日東薬品工業株式会社「酪酸菌NT株は腸管出血性大腸菌のベロ毒素を抑制」(PDF)

ホスホマイシンというのは抗生物質のひとつです。上記の研究では、酪酸菌NT株と腸管出血性大腸菌を一緒に培養することにより、抗生物質(ホスホマイシン)を投与した場合でもベロ毒素の放出を抑制することができた、という結果が報告されています。

健康長寿に関連している可能性

長年ヒトが持つ腸内細菌を研究している理化学研究所辨野特別研究室の辨野義己氏によると「健康長寿者の腸には、ある種の腸内細菌が多い」ということがわかっています。その菌こそが「酪酸産生菌(=酪酸菌)」。同氏は第22回腸内細菌学会で行われた市民公開講座にて、次のように述べています。

私の研究で,近年,いちばん大きな発見は,「健康長寿者の腸には,ある種の腸内細菌が非常に多い」ということです.その菌は,「酪酸産生菌(酪酸菌)」です.そしてもう1つ,健康長寿者に多いのは,善玉菌の代表である「ビフィズス菌」です.腸内のビフィズス菌は,通常は加齢によって減少していくのですが,健康長寿者の大便からは,平均値よりはるかに多いビフィズス菌が見つかっています.

引用元:辨野義己「“長寿菌”がいのちを守る ! 〜大切な腸内環境コントロール〜」(PDF)

1990年代から、腸内細菌の研究にDNA解析が用いられるようになったことで腸内細菌の全体像が明らかになり、こうした内容が明らかになってきました。健康長寿を実現するために大切なのは、「食物繊維を多く摂ることである」と辨野氏は述べています。これは、酪酸産生菌が酪酸を作り出す過程において、食物繊維が欠かせないためです。

また、食物繊維とともにヨーグルトやチーズなどの発酵食品を摂取すること、さらに体をよく動かすことが「長寿菌を増やす」ということに関連すると考えられています。

自分と酪酸菌NT株との相性は?

どんなに素晴らしい効果が報告されている菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。

もちろん、ここで紹介した酪酸菌NT株についても同様で、この菌が合うかどうかは、実際に摂取してみて、自分の体調の変化を確認してみるしかないのが現状です。

世の中に存在する乳酸菌・ビフィズス菌には数えきれないほどの種類があり、商品化されているものだけでも膨大な数があります。そのため、自分と相性の良い菌を見付けるためには、それなりの覚悟をもって、根気よく挑まなくてはなりません。

しかし、自分にピッタリの菌を見付けるのは、それだけの価値があること。一生をかけて、理想の乳酸菌を追求し続けるくらいの気持ちで挑むことが大切です。摂取せずにどんな菌が合いそうか、なんて考えても意味はないので、まずはどんな菌があるのかを知り、興味のあるものから順にかたっぱしから試していきましょう。

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ただし、一部には例外といえる成分もあります。たとえば「乳酸菌生成エキス」という成分は、最初から自分が持っている乳酸菌を育てるためのものです。

そもそも乳酸菌を摂取するのは、自分の腸内で善玉菌を増やして腸内環境を整えることが目的。つまりこの成分を摂れば、自分にピッタリの乳酸菌を摂取するのと同様の効果が得られるというわけです。菌との相性を気にする必要がないため、手っ取り早く健康になりたいという方は、こういった成分を探した方が良いかもしれません。

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酪酸菌NT株の歴史

ヒトから分離された酪酸菌NT株は、これまでの研究から免疫機能や腸内環境を整える働きがあることがわかっています。また、長寿にも大きく関与している可能性も示唆されており、今後も引き続き研究が続けられていくことでしょう。

参照元

  1. 日東薬品工業株式会社「有用菌の研究」(https://www.nitto-pharma.co.jp/mycology/research/#researchLink07/
  2. 日東薬品工業株式会社「酪酸菌NT株は腸管出血性大腸菌のベロ毒素を抑制」(https://www.nitto-pharma.co.jp/assets/file/mycology/rd_theme-014.pdf(PDF)
  3. 辨野 義己「“長寿菌”がいのちを守る ! 〜大切な腸内環境コントロール〜」(https://bifidus-fund.jp/meeting/pdf/22th/10_simin-1.pdf(PDF)
  4. 武田コンシューマーヘルスケア株式会社「腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸のちから〜注目される酪酸菌〜」(https://takeda-kenko.jp/yakuhou/feature/intestinalbacteria3/vol01.html
  5. 王子食品株式会社「酪酸菌」(http://ojifood.co.jp/material/rakusankin.php

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管理人:蝶野ハナ

蝶野ハナ

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