プロバイオテクスは、人体に良い影響を与える生きた微生物(善玉菌)です。このページでは、その効果などについて
特定保健用食品(トクホ)の商品で見ることの多いプロバイオテクス。乳酸菌やビフィズス菌、そのほかに納豆菌なども身近ですが、科学的に証明できるいくつかの条件を満たす菌株に限り、プロバイオテクスとされています。
プロバイオテクスの条件は次のようなものです。[注1]
プロバイオテクスには、腸内細菌叢(腸内フローラ)バランスの改善効果があります。体内の微生物のバランスを崩すと病気になると言われることからもわかるように、腸内細菌叢は神経伝達物質やビタミン類(B2、B6、B12、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン)を作り出すだけでなく、免疫力のおよそ70パーセントを担っているとさえいわれています。しかしストレスや食生活の乱れなどの影響を受け腸内細菌叢のバランスが崩れると、体に悪影響を与えるような菌が増殖し、機能をはたすことができなくなります。
そのため体内環境を整えるために、乳酸菌に代表されるプロバイオテクスによる働きで、この崩れたバランスを取り戻すことは病気の発生を未然に防ぐためにも大変重要なことなんです。
では、私たちの体にとりこまれたプロバイオテクスは、どのようにしてバランスを改善し、病気の発生を予防しているのかが気になりますが、実はプロバイオテクスに使われる細菌にはいくつもの種類があり、それぞれの菌が持つ特性により効果も違っているのです。
例えば、乳酸菌のなかでもブルガリア菌は整腸作用や腸内の有害物質の生成を抑える効果が高くラクトバチルス・カゼイ・シロタ株は便秘・下痢の解消に効果があるそうです。LG21乳酸菌やLC1乳酸菌はピロリ菌撃退に効果的だと言われています。クレモリス菌は便秘の改善、コレステロール低下なのでメタボの予防に役立ちそうですね。ビフィズス菌LKM512はアトピー性皮膚炎を軽減し寿命伸長効果もあるそうです。1073R-1乳酸菌は免疫力が高まり風邪をひきにくくなるそうです。
このようにプロバイオテクスはすべて同じではありません。特定の種類の乳酸菌が役に立っても別の症状に同じ効果を発揮するとは限らないのです。乳酸菌らなんでも同じだと思い込んで続けてきたけれど、イマイチ効果が出なかったという方は、パッケージにある菌の種類を確認して自分の症状に合ったものを選ぶといいかもしれません。
ほかにも美味しい素をつくりだす乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラムはぬか漬け、しば漬け、キムチ、ザワークラウト、キムチを美味しくしているのはラクトバチルス・プレビスという菌です。
また乳酸菌の中には、C型肝炎治療、抗ガン作用、抗ガン剤の副作用軽減などに効果があることで特許まで取得したフェカリス菌FK-23株というものもあるんです。
知れば知るほど奥の深いプロバイオテクス、人体に良い影響を与える生きた微生物なんですね。
例えば雑誌「薬局2017年10月号特集プロバイオティクス」に次のような内容で研究結果が紹介されています。
健康な人にとってプロバイオテクスは安全で仮に副作用が起こるとしても軽度なものと思われます。
しかし、研究で効果が証明されるものもあり、感染症の予防や過敏性腸症候群の症状の改善に効果のあるプロバイオテクスがあるという予備的エビデンスがありますが、さらに調査が必要なようです。またどの種類のプロバイオテクスが有効で、どのプロバイオテクスがそうでないかは、まだはっきりしていません。特定の利用方法をサポートできるだけの確固たる科学的エビデンスは少なく、さらにプロバイオテクスをどの程度摂取しなければならないか、またプロバイオテクスの摂取により、その効果がどのような体質の人に表れるのかもはっきりしていないようです。[注2]
プロバイオティックスは補完療法で、通常医療の代わりとして科学的に立証された治療の代わりにはならないので、乳幼児や重病で免疫システムが弱っている方など健康上の問題がある場合は、サプリメントを摂る前にかかりつけ医に相談してください。
プロバイオティクスの概念が登場したのは、今からおよそ100年前。ノーベル生理・医学賞受賞者であるエリー・メチニコフが、一定量のラクトバチルス菌を摂取することで健康増進効果が高まると提唱したことがはじまりです。[注3]
ノーベル生理・医学賞受賞者、エリー・メチニコフは、著書“Etudes optimists sur vieillesse,longevite, et morts naturelle”(1907)の中で天寿を全うして迎える死、つまり自然死がいかに達成できるかについて思考し、その過程で生物の寿命には長短があり、消化管にその謎の答があるとの思いに至りました。彼は人間が生まれた時は不健康(つまり不調和)な状態であり、その不健康状態を取り除くことによって初めて健康になれると考えました。つまり、健康から病気になるのではなく、病気(状態)から健康になるというもので、病気状態から健康を導く妙薬が乳酸菌であるとしました。加えて彼は、病気状態から脱出させ得るものは宗教でも哲学でもなく、究極の自然死の達成を助けることができるのは科学であると主張しました。彼のこの主張は不老長寿説と言われ、後世の腸管微生物学の発展と発酵乳の普及に多大なる影響を与えました。同時に彼は自らの考え方が正鵠を射ていることを実証するために疫学調査を行い、毎日酸乳を300 ~500ml摂取すると整腸効果があり、酸乳を長期間飲用している人達に長寿者が多いことを認め、早老や老衰は大腸に棲息する無数の細菌が産生する毒素によって起こると考察しました。
このエリー・メチニコフの考えこそが、現代におけるプロバイオティクス研究の出発点となったのです。彼の主張がなければ、今日のプロバイオティクス製品の活況はなかったのかもしれません。
プロバイオティクスという言葉を初めて定義づけたのはイギリスの微生物学者であるロイ・フーラー。1989年、彼はプロバイオティクスを「腸内細菌叢(フローラ)を改善することによって宿主に有益な作用をもたらす経口摂取可能な生きた微生物」と定義しました。その後、スペインのガーナーによる「宿主に適当量与えたとき健康効果を発揮する生きた微生物」という再定義を世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)のワーキンググループが採択し、今日に至ります。
ちなみに、プロバイオティクスの語源は、「共生」を意味する「プロバイオシス」という言葉だそうです。[注1]
プロバイオティクスに対し、プレバイオティクスという概念があることをご存知でしょうか?
プレバイオティクスというのは「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」のこと。おもな種類はオリゴ糖や食物繊維などで、いわばプロバイオティクスのエサのようなものだと考えられます。
プレバイオティクスは1995年に英国の微生物学者ギブソンによって提唱されたもので、消化管上部で分解・吸収されず、大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持して人の健康の増進維持に役立つ条件を満たす食品成分を指しています。現在までに、オリゴ糖や食物繊維の一部(ポリデキストロース、イヌリン等)がプレバイオティクスとしての要件を満たす食品成分として認められています。表1に主なプレバイオティクスを示しました。代表的なプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖はビフィズス菌や乳酸菌の成長を促進します。フラクトオリゴ糖はショ糖をベースにしたオリゴ糖で、少し甘味をもっています。チョウセンアザミ、タマネギ、ニンニク、ニラなどにも含まれています。表1に示したように、フラクトオリゴ糖のほかに大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖は難消化性ですがこれらは腸内フローラを介して分解されます。ラクチュロースはプレバイオティクスとしては初めて医薬品に用いられた乳糖ベースのオリゴ糖です。肝性脳症の患者にラクチュロースを摂取させると、腐敗菌によるアンモニア産生が減少するために肝臓の解毒負担が軽減され、肝機能低下による症状の改善を図ることができます。また、便量が増えることもわかっています。
表1 主なプレバイオティクス
ショ糖をベースにしたオリゴ糖 | フラクトオリゴ糖(難消化性) ラクトスクロース(難消化性) テアンデロース(難消化性) |
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乳糖をベースにしたオリゴ糖 | 4’ガラクトオリゴ糖(難消化性) 6’ガラクトオリゴ糖(難消化性) ラクチュロース(難消化性) |
デンプンその他多糖をベースにしたオリゴ糖 | イソマルトオリゴ糖(消化性) ゲンチオオリゴ糖(難消化性) トレハロース(消化性) キシロオリゴ糖(難消化性) 大豆オリゴ糖(難消化性) |
糖アルコール | マルチトール(難消化性) ラクチトール(難消化性) 還元イソマルツロース(難消化性) ソルビトール(難吸収性) キシリトール(難吸収性) |
プロバイオティクスと並行し、上記のようなプレバイオティクスを摂取する療法のことを「シンバイオティクス」と呼びます。これは、生菌だけでなく、その増殖因子も一緒に摂り込むことによって、より強力に腸内環境を改善する治療法なのです。[注4]
近年では、消費者庁によって機能性表示食品制度が定められ、乳酸菌・ビフィズス菌を配合した商品も数多く販売されるようになってきました。
その一方で、プロバイオティクスは医療分野でも注目されており、がん、アレルギー、生活習慣、心身医学、加齢医学といった分野で、さまざまな医薬品に取り入れられています。[注3]
さらに、乳酸菌が家畜の生産性向上に役立つことも明らかにされています。これまで家畜の疾病抑制剤や成長促進剤として使用されてきた抗生物質は、家畜の肉や卵に抗生物質残留汚染や耐性菌の出現といった問題が指摘されてきました。
プロバイオティクスによる家畜の生産性向上は1990年代から行われてきましたが、こうした試みが進んでいけば。前述のような抗生物質が持つリスクを回避することができることでしょう。[注5]
抗生物質の乱用によって耐性菌出現の新たな問題が生じ、抗生物質のみにしがみつくことの怖さを私たちは知っております。臨床現場で、消化器系の細菌性疾患に抗生物質を制限して使用しなければならない事態は致し方がないことですが、それを補うものとしてプロバイオティクスが必要視されてきております。抗生物質が生物に対して攻撃的であるのに対し、プロバイオティクスは共生的であることがその最大の理由です。抗生物質とプロバイオティクスの併用によって抗生物質使用による耐性菌出現の恐れを軽減することが可能であり、まさに今世紀はプロバイオティクス併用によって腸内細菌叢に活力を与え、その恵みを受ける時代といえそうです。
プロバイオティクスという言葉は、もともと抗生物質(antibiotics)に対して提案されたものです。自分たちにとって害のある生物を排除するのではなく、有益な菌と共生することで本来備わっている免疫機能を高める……こうした「自然防御(ナチュラルディフェンス)」の考え方は、きっと、より安全性の高い治療法を私達にもたらしてくれるのではないでしょうか。[注6]
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?