乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)とは、キリン株式会社と小岩井農場株式会社が共同研究した乳酸菌。もともと「乳酸菌の体質改善効果」に注目して研究を進めていた中で発見されたものですが、主な働きとして、「免疫細胞の濃度バランスを整える」ことがわかっており、サプリメントなどに配合されています。
まだ研究途上の乳酸菌ですが、これまでの研究データによって花粉症やアトピー性皮膚炎などの緩和作用が示唆された乳酸菌です。乳酸菌KW3110株が持つとされる作用や、それに関する研究報告などについて、論文の引用を交えながら詳しく解説します。
ヨーグルトや発酵食品を作る際に用いられる一般的な100種類以上の乳酸菌の中から発見された「乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)」。この乳酸菌は、キリン株式会社と小岩井乳業株式会社が健康機能に注目し、共同研究したもの。免疫細胞の濃度バランスを整える働きを持つことがわかっており、さらにさまざまな研究が行われています。
実に101種類もの乳酸菌の比較研究を経て、特にアレルギー症状の緩和に一定の作用を持つことが示唆されています。この菌の働きについて、ひとつずつチェックしていきましょう。
乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)は、「生きて腸まで届く乳酸菌」と言われ、腸まで到達して腸内細菌のバランスを整えると期待されています。キリンホールディングスでは、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)を摂取した場合に腸まで届いているかを調査しています。
そこで、乳酸菌KW3110株が生きて腸に到達できるかを、胃内の環境に合わせてpH3に調整した培地での乳酸菌KW3110株の生菌率と界面活性作用のある胆汁酸を含む培地での増殖能で調べました。その結果、乳酸菌KW3110株は、胃酸や胆汁酸に耐性があることが確認できました。
近年、さまざまなアレルギーに悩む人が非常に多くなっています。アレルギー反応には多くの免疫細胞が関わっていますが、キリンホールディングスでは、免疫細胞の中でも「Th1」と「Th2」という2つの免疫細胞に注目。この2つの免疫細胞は、普段はバランスを保っているものの、そのバランスが崩れてしまうとアレルギー症状が出てきます。
そこで、この免疫のバランスを整えてくれる乳酸菌がないかという観点で研究が行われた結果、発見されたのが乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)。さまざまなアレルギー症状が起こっているのは、免疫細胞の「Th2」側にバランスが傾いている状態になってしまっているから。乳酸菌KW3110株は、この傾いたバランスをTh1側に修正する働きを持っている乳酸菌なのです。
マウスを使った実験を通じ、乳酸菌KW3110株には、免疫細胞「Th1」と「Th2」のバランスを整える働きがあることが示唆されました。一般に、アレルギー症状は「Th1」と「Th2」のバランスの乱れが関与している、と考えられています(アレルギー症状と「Th1」と「Th2」のバランス変化には関連がない、と主張する研究者もいます)。
ヒトを対象とした実験を通じ、乳酸菌KW3110株には花粉症の症状緩和があることが示唆されました。詳しくは後述しますが、乳酸菌KW3110株を摂取することで、花粉症の悪化を防ぐ可能性があることが示唆されています(花粉症が治るというデータではありません)。
マウスを使った実験により、乳酸菌KW3110株には、アトピー性皮膚炎の症状を緩和させる働きがあることが示唆されました。ヒトを対象とした試験は行われていませんが、研究グループは、ヒトに対しても同様の作用がある可能性を指摘しています。
上でご紹介した乳酸菌KW3110株の作用について、研究グループが発表した論文から、具体的な研究成果をご紹介します。
アレルギーを誘導したマウスに、乳酸菌KW3110株を1mg毎日摂取させたところ、乳酸菌KW3110株を与えた群では、アレルギー反応の原因であるIgE抗体の量が乳酸菌を与えない群に比べて低くなることがわかりました。
また、このマウスの脾臓リンパ球のサイトカイン産生能を調べたところ、乳酸菌KW3110株を与えた群のリンパ球のほうがTh1サイトカインの産生量が高いことがわかりました。すなわち、乳酸菌KW3110株を摂取することによって、Th2細胞に傾いた免疫細胞のバランスを、Th1細胞とのバランスがとれている状態に改善するはたらきがあることが示唆されました。
IL-12 産生量はコントロール群では極微量であるが、KW3110 株摂取群では有意に増加していた。一方、IL-4 産生量はコントロール群に比較して、W3110 株摂取群では低下傾向を示した。また、KW3110 株摂取群では抗原提示細胞上の共刺激伝達分子である CD40+及び B7-1 の発現が上昇しており、抗原提示細胞の成熟化が起こっていることが示唆された(data not shown)。以上の結果は、KW3110 株摂取によって Th1 誘導活性が亢進し、Th2 誘導能が抑制されたために、血中 IgE 産生が阻害され、アレルギーの進行が抑制されたことを示唆している。
アレルギー発症の原因の一つとされているのが、上記の研究に登場する「Th1」と「Th2」という2つの免疫細胞。双方がバランス良く存在していればアレルギーが発症しにくいのですが、何らかの理由で「Th2」が増大したとき、アレルギー症状が発症すると考えられています。
なお、ここで登場する「コントロール群」とは、KW3110株を含まない飼料を摂ったマウスを指しています。
上記の試験結果を簡単にまとめると、「乳酸菌KW3110株には、Th1とTh2のバランスを整える作用がある」というものです。
マウス試験により、アレルギー改善の効果が示唆された乳酸菌KW3110株。次に研究グループは、同じアレルギー症状の一つであるスギ花粉症への乳酸菌KW3110株の効果について、ヒトを対象に試験を行いました。
なお、以下の引用で登場する「B株群」とは、乳酸菌KW3110株よりも免疫調整機能に乏しい乳酸菌を摂取したグループを指しています。
B 株群では 1 月から 4 月にかけて Th1/Th2 比の有意な低下(p=0.0052)が観察され、アレルギー状態の悪化が示唆された。これは Th1 細胞数の増加というより、Th2 細胞数の減少に起因することが示唆されている(data not shown)。一方、KW3110 株群では有意な変化は認められなかった。また、h1/Th2 比が変動しない乃至は増加した被験者がB株群では3名であったのに対し、KW3110株群では7名であった。
1 月及び 4 月の ECP 値の変化を図6(図省略)に示す。B 株群では 1 月から 4 月にかけて ECP 値の有意な増加(p=0.0157)が観察され、アレルギー状態の悪化が示唆された。一方、KW3110 株群では有意な変化は認められなかった。また、ECP 値が変動しない乃至は減少した被験者が B 株群では 3 名であったのに対し、KW3110 株群では 8 名であった。
研究結果としては、「乳酸菌KW3110株を摂った被験者には花粉症の有意な改善は見られなかったが、乳酸菌KW3110株ではない乳酸菌を摂った被験者には花粉症の悪化が見られた」というものでした。この研究を通じ、研究グループは「KW3110 株はヒト花粉症においても一般的な乳酸菌株に比してアレルギー改善効果を持つことが示唆された」と結論付けています。
アトピー性皮膚炎もまた、免疫機能のバランス低下によるアレルギー症状のひとつと考えられています。
研究グループは、マウスを使ってアトピー性皮膚炎に対するKW3110株の効果の有無を調査しました。試験の内容は、アトピー性皮膚炎を発症しているマウスを2つのグループに分け、1つのグループは標準的な餌を与え、もうひとつのグループには1日あたり10mgのKW3100株を摂取させえうというもの。
なお、下の引用で登場する「コントロール群」とは、乳酸菌KW3110株を含まない通常飼料を摂取したマウスを指します。
コントロール群ではヒトアトピー性皮膚炎に類似した皮膚組織の糜爛・欠損や出血が見られるが、KW3110 株群では若干の浮腫が見られるものの症状はほとんど進行しなかった。この結果は KW3110 株群で臨床スコアがコントロール群に比して大きく下回ることからも確認できた(data not shown)。また血中総 IgE 量の大幅な低下も6項同様に観察され(図8)(図省略)、トルイジンブルー染色によるマスト細胞染色像において顆粒を含んだマスト細胞数の低下も確認された(図9)(図省略)。これらの結果から、KW3110 株摂取によって即時型アレルギー反応が抑制された結果、アトピー性皮膚炎様の臨床症状も大幅に改善されることが示唆された。
結果として、KW3110株の摂取によってIgE抗体の血中濃度は大幅に低下。同菌がアトピー性皮膚炎の症状改善効果が示唆されました。
なお、この研究における「臨床症状」とは、マウスではなくヒトにおける症状のことですが、研究者とたちは、ヒトにおけるアトピー性皮膚炎に対しても、KW3110株が「大幅に改善される」可能性を指摘しています。
スギの花粉によるくしゃみに対し、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)がどのような影響を与えるかという研究をご紹介します。この研究では、スギ花粉に感作させたマウスを用い、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)を与えたグループと与えないグループの双方で、くしゃみや鼻の引っかきなどの行動を比較したものです。
乳酸菌KW3110株を摂取させていたマウス群では、くしゃみや鼻の引っかき行動が抑制されました。これらの結果により、乳酸菌KW3110株の摂取が花粉による鼻での反応を抑える可能性が動物モデルで示されました。
上記のデータからわかるように、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)を与えたマウスでは、スギ花粉が影響する症状(くしゃみや鼻の引っかき)が少ないことがわかります。これは、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)がTh1/Th2バランスを修正するはたらきを持っているから。以上の内容より、スギ花粉によって起こる症状の緩和が期待できると考えられています。
さまざまな研究より、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)を摂取した場合には、体内でTh1/Th2のバランスを修正することがわかっています。このことから、乳酸菌KW3110株(KW乳酸菌)を摂取した際に、細胞や体内でどのような作用が行われているのかを解析する実験も行われました。
IL-4やIgEといったアレルギー因子の産生を抑制するにはIL-12を産生させることが重要であることが示されています。生体内でマクロファージと呼ばれる細胞は、乳酸菌を取り込むことによってIL-12の産生を誘導します。しかしIL-12産生誘導能は乳酸菌株ごとに異なります。その理由を解明するためにマクロファージ(マウスCD11b+細胞)による乳酸菌の取り込み率とIL-12産生誘導能との関係を調べました。その結果、乳酸菌株によって、マクロファージへの取り込み率は異なっており、IL-12産生誘導能との間に相関関係があることがわかりました。
どんなに素晴らしい効果が報告されている菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。
もちろん、ここで紹介した乳酸菌KW3110株についても同様で、この菌が合うかどうかは、実際に摂取してみて、自分の体調の変化を確認してみるしかないのが現状です。
世の中に存在する乳酸菌・ビフィズス菌には数えきれないほどの種類があり、商品化されているものだけでも膨大な数があります。そのため、自分と相性の良い菌を見付けるためには、それなりの覚悟をもって、根気よく挑まなくてはなりません。
しかし、自分にピッタリの菌を見付けるのは、それだけの価値があること。一生をかけて、理想の乳酸菌を追求し続けるくらいの気持ちで挑むことが大切です。摂取せずにどんな菌が合いそうか、なんて考えても意味はないので、まずはどんな菌があるのかを知り、興味のあるものから順にかたっぱしから試していきましょう。
ただし、一部には例外といえる成分もあります。たとえば「乳酸菌生成エキス」という成分は、最初から自分が持っている乳酸菌を育てるためのものです。
そもそも乳酸菌を摂取するのは、自分の腸内で善玉菌を増やして腸内環境を整えることが目的。つまりこの成分を摂れば、自分にピッタリの乳酸菌を摂取するのと同様の効果が得られるというわけです。菌との相性を気にする必要がないため、手っ取り早く健康になりたいという方は、こういった成分を探した方が良いかもしれません。
キリンビールを始めとした共同研究者たちは、乳酸菌KW3110株の開発の歴史の背景として、現代の日本におけるアレルギー問題の深刻化を懸念していました。いくつかの有効な治療法が発見されているものの、いまだに決定的な治療法が開発されていないアレルギー症状。免疫バランスを整えることがアレルギー対策として有効であるという考えのもと、乳酸菌KW3110株の研究・商品化を目指しました。
若年層の実に約 90%がアレルギー体質であると言われる。中でも花粉症は飛躍的に増大しており、1983 年には都民の 6%程度の発症率であったのが、1998 年には 20%近くにまで増加していることが報告されている3)。この様な現状に対して、医薬品メーカーを中心にアレルギー克服のための研究が精力的に行われ、数々の製品が開発された。その代表的なものは抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤であるが、これらの薬剤はアレルギー発症機序の末端に位置するマスト細胞と呼ばれる顆粒球からの炎症性物質の放出やレセプターへの作用を特徴としており、一過性の症状緩和をもたらす反面、アレルギー発症の根本には影響しない。また特に重い症状を有する患者に対してはステロイド剤などが投与されることがあるが、この類の薬剤においてはその副作用が心配されることは周知の通りである。
乳酸菌KW3110株の開発の背景にあったものは、アレルギー体質の若者が急増している現状、および、医薬品メーカー等において決定的なアレルギー治療薬が開発されていないこと。かねてから、アレルギー症状は免疫機能に関与した症状であることが知られていたため、キリンホールディングスを中心とした共同研究者たちは、免疫機能に作用する乳酸菌の研究・開発を着手しました。
もともと、乳酸菌は体質を改善する働きを持つことから、健康維持効果が高いと言われていました。その中で、キリン株式会社では昭和女子大学大学院と共同で研究を実施。マウスを使った実験を行い、アレルギー状態のマウスから単離したリンパ球とさまざまな乳酸菌を共存させることにより、サイトカインを誘導する活性を比較しました。
昭和女子大学大学院生活機構研究科と共同で、アレルギー状態のマウスのリンパ球(白血球の一種)と様々な乳酸菌を共存させて、サイトカイン(特定の細胞に情報を伝えるタンパク質)を誘導する活性を比較しました。
その結果、乳酸菌のTh1サイトカインとTh2サイトカインの誘導活性は菌株により大きく異なることがわかりました。アレルギー状態のマウスの血液では、Th1サイトカインとTh2サイトカインのバランスがTh2側に傾いています。数ある乳酸菌の中でも、小岩井乳業が所有するLactobacillus paracasei KW3110株が、Th1サイトカインを誘導する活性およびTh2サイトカインを抑制する活性が高いことを発見し、「乳酸菌KW3110株」と命名しました。
キリンホールディングス、昭和女子大学、小岩井乳業の共同研究により、乳酸菌KW3110株の高い免疫調整作用が判明。以後、研究者たちはマウスやヒトを対象とした各種の試験を重ねていきました。
さまざまな試験を経て、乳酸菌KW3110株の免疫調整作用に確信を持ったキリンホールディングスと小岩井乳業は、乳酸菌KW3110株を配合した具体的な商品開発に着手。食品の味を損なうことなく、死菌でも同じ作用を得られる乳酸菌として、幅広い商品の開発が検討されました。
多くの乳酸菌は醗酵能が乏しかったり、異臭の原因となる物質を作ったりするため、醗酵食品製造に適さない。しかし KW 乳酸菌の場合は元々チーズから分離された乳酸菌であったため、この様な問題を示さずヨーグルト製品は開発可能であった。
また、免疫機構は乳酸菌体を異物として認識して一連の反応を引き起こして抗アレルギー能を発揮するため、死菌・生菌を問わない。事実、動物実験までは全て死菌で実験が行われた。このような特性は醗酵商品以外への応用を容易にしたため、清涼飲料への添加や錠剤のような形態での商品開発も可能になった。
さまざまな食品への添加の可能性が広がった乳酸菌KW3110株。2019年現在でも、乳酸菌KW3110株を配合した食品の開発が続けられている一方、研究者たちは次のようなコメントで論文を締めています。
人間は本来ある程度細菌感染をしながら生きていくようにプログラムされているのかもしれない。そういう意味で、我々人間は現在の生活環境の変化にまだ適応していないのだろう。KW 乳酸菌によってもたらされるアレルギー改善作用とは人間が本来持っている免疫調節機能を呼び起こすものと言ってもいいかもしれない。
現代の若者にアレルギーが多く見られるようになった理由として、「子供たちがかつてのようにどろんこ遊びをしなくなったことが一要因」とする見方もあります。泥んこからの感染が少なくなったため免疫機能が低下した、とする考え方です。
もちろん、この考え方が正しいかどうかは不明です。しかし、キリンホールディングスが言う「人間は本来ある程度細菌感染をしながら生きていくようにプログラムされているのかもしれない」との仮説とリンクし、とても興味深い学説であると言えそうです。
乳酸菌KW3110株を配合した商品は、小岩井乳業やヤクルトなどから販売されています。乳酸菌KW3110株配合商品の一部を見てみましょう。
乳酸菌KW3110株を開発した、小岩井乳業から販売されているヨーグルト。乳酸菌KW3110株のほかにも、ミルク由来のカルシウムを豊富に配合しています。濃厚な味わいながらも、うれしい低脂肪タイプ。
ノアレは、乳酸菌の開発で知られるヤクルトが開発したサプリメント。やや大きめのタブレットタイプで、味はグレープフルーツ味。おやつ感覚で食べられる人気のサプリメントです。乳酸菌配合サプリメントの中では、価格が比較的リーズナブルな点も人気の理由。なお、現在は販売権が譲渡され、キリンから販売されています。
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?