クレモリス菌FC株を知らなくてもスーパーやコンビニなどでよく見かけるカスピ海ヨーグルトなら、ご存知の方も多いのではないでしょうか。そのカスピ海ヨーグルトに含まれている菌がクレモリス菌FC株なんです。
ヨーグルトといえば乳酸菌、乳酸菌は、ガセリ菌ビフィズス菌というイメージですが他にも乳酸菌の種類はたくさんあり、クレモリス菌FC株も、そんな乳酸菌の一種で生きて腸まで届くプロバイオティクス乳酸菌です。
クレモリス菌FC株は、ビフィズス菌などのお馴染みの乳酸菌とは、いくつかの違いがあるのですが、強力な粘り成分をつくりだすところが一般的なヨーグルトを作る乳酸菌との大きな違いで、カスピ海ヨーグルトのとろりとした独特な食感を生み出します。
この粘りの成分はEPS多糖体と呼ばれ、人の消化酵素では分解できません。そのため、EPS多糖体に包まれたクレモリス菌FC株は生きたまま大腸まで届き、また老廃物と一緒に排出するので腸内環境を整え肌荒れ改善にも効果があると言われています。
しかも腸内環境が整うことでアレルギー症状まで改善されることもわかっています。一般的なヨーグルトに含まれている乳酸菌やビフィズス菌などの多くは胃酸に弱く、腸に届くまでに死滅してしまうため、強いクレモリス菌FC株のカスピ海ヨーグルトが注目されたのではないでしょうか。
実はクレモリス菌FC株は日本には存在しない乳酸菌でした。
長寿研究で有名な家森幸男博士が1986年にWHO(世界保健機関)のプロジェクトに参加した際に世界屈指の長寿地域であるカスピ海付近のコーカサス地方を訪れ、そこで食べられていた自家製ヨーグルトを研究のために日本へ持ち帰ったことがはじまりでした。
家森博士が、この自家製ヨーグルトに注目したきっかけは下痢。
この調査地であるカスピ海付近のコーカサス地方には100歳以上の元気なお年寄りが暮らす村があり、そこで食事の歓迎を受けたのですが、その料理にはハエがたかっていたといいます。家森博士は食べるのが礼儀だと思って食べたのですが、その後ひどい下痢に苦しんだそうです。
ところが同じものを食べた地元の人は平気でいることから自家製ヨーグルトを食べているから免疫力が高いのだろうと、研究のためにそのヨーグルトを日本へ持ち帰り地元の人に教わった作り方でヨーグルトを作り、現在のカスピ海ヨーグルトが誕生したのです。
乳酸菌には、非常に多くの種類があります。それぞれの乳酸菌には特徴があり、みな働きが同じというわけではありません。他の乳酸菌と比べたときのクレモリス菌FC株の特徴は、主に次の3つです。[注1]
私たちがよく耳にするビフィズス菌やブルガリア菌は、棒状または根棒状の形をしています。一方、クレモリス菌FC株は、楕円形が連なったような形です。
乳酸菌は形によって分類されることがありますが、クレモリス菌FC株は、その形の特徴から「連鎖球菌」と分類されています。
多くの乳酸菌は胃酸に弱いため、乳酸菌を含む食品を食べても、その多くが胃の中で死滅してしまいます。しかし、クレモリス菌FC株は胃酸に強いため、生きたまま腸まで届く性質を持っています。腸の中で身体に良い働きをする「プロバイオティクス」の一種です。
クレモリス菌FC株は、発酵の過程でEPSという成分を生み出します。EPSとは、カスピ海ヨーグルトの粘り気の元となる成分で、免疫細胞を活性化させることでも知られる成分です。他の乳酸菌の発酵過程では、EPSはほとんど生産されません。
ただし、どんなに素晴らしい効果が報告されている乳酸菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。いろいろ買ってみて試してみる、というのも楽しいかもしれませんが、自分に合う菌と出会うためには、それなりにお金と時間をかける必要があります。
そこで、自分に合った菌を探すのに役立つツールとして「乳酸菌相性チェッカー」を用意してみました。乳酸菌選びで迷っている方は、ぜひ活用してみてください!
クレモリス菌FC株の粘性ヨーグルトを継続的に摂取している人のなかには、便通の改善効果のほか様々な健康効果を感じる人がいることが知られていましたが、その科学的な証明はこれまで行われていませんでした。
そこで本研究では、クレモリス菌FC株のヒトに対する健康効果を明らかにすることを目的として、クレモリス菌FC株を含有する発酵乳の健常な高齢者に対する排便状況と便性および糞便内菌叢におよぼす影響について検討しました。
クレモリス菌FC株とStreptococcussalivariussubsp.thermophiles510および豆乳を20%含むドリンクタイプのヨーグルトを試験食として健常な高齢者70名を対象に飲用試験を行いました。
被験者を2群に分け、1か月間の休止期間をはさんで試験食および対照食(クレモリス菌FC株を含まないヨーグルト)各々150gを毎日1か月間ずつ摂取してもらうクロスオーバー試験の実施。
その結果、排便量は摂取後2週間で試験食群、対照食群とも非摂取期に対して有意に増加しました。しかし、排便回数と排便日数は、試験食群では有意に増加したのに対して対照食群では増加傾向は示したものの有意ではありませんでした。
また、試験食群、対照食群ともに便形成、色、排便後のスッキリ感が改善され、特に便秘傾向者でその傾向が大きな結果となりました(図3)。試験食群では菌叢に対するBifidobacteriumの占有率が増加し、Clostridiumperfringensの検出率は減少する傾向を示しましたが、対照食群においては変化がみられませんでした。
これらの結果から、試験食ヨーグルトは対照食ヨーグルトと比較して整腸効果が高いと考えられました。[注2]
カスピ海ヨーグルトに含まれる粘り成分(EPS)は、その他の乳酸菌で作ったヨーグルトにはほとんど含まれていない成分です。カスピ海ヨーグルトから精製した粘り成分であるEPSを使って、EPSが免疫細胞を活性化させてくれるかを調べました。その結果サイトカインとよばれる生理活性物質の生成を誘導する作用があり、粘り成分(EPS)は免疫細胞を活性化することがわかりました。[注3]
ブドウ糖と、クレモリス菌FC株を含むカスピ海ヨーグルト、EPSがなく粘りの無い代わりにクレモリス菌を含むヨーグルトを一緒に投与して、血糖値の変化を調べました。その結果粘りのあるカスピ海ヨーグルトを一緒に投与した方が、血糖値の変化が緩やかになることがわかりました。このことからカスピ海ヨーグルトに含まれる粘り成分(EPS)は、食物繊維のようにはたらくことで血糖値の上昇がゆるやかになる可能性が考えられました。[注4]
ストレスで皮膚の血流量や水分量を保つ肌の機能が低下して状態でクレモリス菌FC株で発酵させたカスピ海ヨーグルトから精製した粘り成分(EPS)が含まれる画分を摂取すると肌機能が改善するかどうかを調べた結果、肌機能の改善効果が見られたそうです。[注5]
健康な成人女性66名(平均年齢45.3歳)を対象として、EPSをつくるクレモリス菌FC株と、対照としてEPSをつくらない菌種で調製したヨーグルトを6週間毎日摂取してもらいました。摂取前、摂取2、6週目、摂取後に採便を行い、得られた便に含まれる細菌のDNA情報をもとに腸内菌叢を網羅的に調べました。また、試験期間中の排便状況の調査、試験開始時には食物摂取頻度調査を実施。
その結果、クレモリス菌FC株牛乳発酵物は、食物繊維を含む食品の摂取率が比較的低く、菌叢が変化しにくいと考えられるような人に対しても、ビフィズス菌占有率を有意に増加させる効果が認められました。[注5]
乳酸菌クレモリス菌 FC 株を老化、生体防御研究の有用なモデル動物である線虫に給餌したところ、対照群(大腸菌を給餌)に対し、有意に寿命が約 1.2 倍延長しました。さらに、その運動性を比較したところ、クレモリス菌 FC 株給餌群は対照群に比べ、日齢を重ねても自発的に動き回る線虫の割合が高く、老化による運動性の低下を改善、すなわち健康寿命も延長することが分かりました。
長寿が多い地域として世界的に知られているジョージア・コーカサス地方。カスピ海ヨーグルトの発祥の地としても知られる場所です。コーカサス地方における長寿の理由を探るべく、フジッコ株式会社は、大阪市立大学大学院の西川禎一教授と共同で、カスピ海ヨーグルトに含まれる乳酸菌クレモリス菌 FC 株と寿命との関係について実験を行いました。
実験で使用されたのは、体長1mmほどの線虫。線虫とは、普段は土壌などの中で細菌や真菌をエサにして自活している生物。1,000個ほどの細胞からなり、約3週間の寿命を持つ生き物です。体は小さいながらも、神経系、筋肉、消化器官を持ち、人間と同じように老化現象があることで知られ、寿命の研究においてよく使用されています。
フジッコと大阪市立大学の共同研究グループは、乳酸菌クレモリス菌 FC 株をエサとして与える線虫と、別のエサを与える線虫とに分け、それぞれの寿命や老化現象の推移を観察しました。
実験の結果、乳酸菌クレモリス菌 FC 株をエサとして与えられた線虫は、別のエサを与えられた線虫に比べ、寿命が約1.2倍延長。加えて、自発的な運動性の改善が確認されました。単に寿命が延びただけではなく、健康寿命も延びた、ということになります。
乳酸菌クレモリス菌 FC 株がヒトの寿命に与える影響については、より多くの実験を重ねていかなければなりません。しかしながら、ヒトの寿命の研究において多くモデルとされる線虫の寿命が延びた点は、示唆に富んだ実験結果と言うことができるでしょう。
カスピ海ヨーグルトは、自宅でも簡単に作ることができます。出来上がったカスピ海ヨーグルトを種にして、半永久的に造り続けることも可能です(「植え継ぎ」と言います)。興味のある方は、ぜひカスピ海ヨーグルトの自作にチャレンジしてみてください。[注6]
牛乳が固まるまでの時間の目安は、夏の場合は12~48時間、冬は24~72時間程度。気温が高い季節のほうが早く固まります。
粉末菌種の代わりに出来上がったカスピ海ヨーグルトを使い、上の「作り方」と同じ要領で植え継ぎすることができます。ヨーグルトと牛乳の比率は1:10。食べる前のカスピ海ヨーグルトを使用し、かつ、なるべく新鮮なうちに植え継ぎしましょう。容器やスプーンの熱湯消毒も忘れないようにしてください。
ここで紹介したクレモリス菌FC株の他にも、乳酸菌にはたくさんの種類があります。もちろん、それぞれに異なった特徴や効果があり、それが自分に合っているかどうかを確かめるのも一苦労。ひとつひとつ自分で買って試してみるのも楽しそうですが、お金も時間もかかります。
そこで、自分に合った乳酸菌を調べることができる「乳酸菌相性チェッカー」を用意してみました。自分にピッタリの菌を探すために、ぜひ活用してみてください!
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?