北海道の農家の漬物から分離された乳酸菌株、乳酸菌HOKKAIDO株(Lactobacillus plantarum HOKKAIDO)は、生きたまま腸まで届いて健康に寄与するプロバイオティクス乳酸菌として、免疫機能の正常化や病原性大腸菌O-157の予防など、様々な効果・効能が期待されています。
植物由来の発酵食品から分離される「ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)」の1つとして、北海道の農家の漬物から発見された乳酸菌HOKKAIDO株は、北海道の大地が育んだ「どさん子乳酸菌」として、北海道ブランドの一角を担う価値が期待されている乳酸菌です。
ラクトバチルス プランタルムは、漬物や味噌といった伝統的な発酵食品に多く含まれている菌であり、日本だけでなく、世界各国で様々な発酵食品や医療分野に利用されている有益菌です。そして中でも乳酸菌HOKKAIDO株は、強い耐酸性(消化液耐性)を持っており、胃酸や胆汁といった消化液に負けることなく、生きたまま腸まで届いて、そこで腸内フローラの正常化を助けることが確認されています。
乳酸菌HOKKAIDO株の有益性については、北海道立総合研究機構(道総研)を中心とした研究機関や企業によって多角的な研究が進められており、免疫機能の正常化に寄与したり、病原性大腸菌O-157の感染予防に働いたりと、様々な効果効能を持つことが示唆されています。
科学的に安全性が認められており、さらに生きたまま腸へと届いて、そこで腸内環境の正常化を通して人の健康を助ける微生物は「プロバイオティクス」と呼ばれており、乳酸菌HOKKAIDO株もプロバイオティクスの1つです。
プロバイオティクスについては、免疫機能の活性化やアレルギー症状の軽減、抗がん作用、感染症や生活習慣病の予防、ストレスやうつ傾向の緩和など、極めて多岐にわたる健康増進効果が知られており、世界各国の研究機関で食品分野や医療分野での研究・開発が行われています。
一方、大腸にそのまま届いて、そこで乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌のエサとして機能し、善玉菌の働きを活性化させる食品は「プレバイオティクス」と呼ばれています。
そして、これらプロバイオティクスとプレバイオティクスの性質を併せ持ったものが、「シンバイオティクス」と呼ばれる食品です。
現在、乳酸菌HOKKAIDO株はプロバイオティクス乳酸菌として役立つだけでなく、プレバイオティクスである大豆オリゴ糖を含んだ豆乳を発酵させて、豆乳ヨーグルトを作るための原材料として利用されています。
このようにして作製された豆乳ヨーグルトは、乳酸菌HOKKAIDO株の機能と、大豆オリゴ糖の効果が合わさった、シンバイオティクス食品であると考えられています。
プレバイオティクスである大豆オリゴ糖を含有する豆乳を原料にHOKKAIDOを使って発酵豆乳、所謂豆乳ヨーグルトを試作した。
大豆オリゴ糖は当該乳酸菌によって資化されないので、製造された豆乳ヨーグルト中にほぼ当初濃度で残存していることが解った。
このことから、当該乳酸発酵豆乳はビフィズス菌を増殖させうる大豆オリゴ糖含有食品であることから、プレバイオティクスとプロバイオティクスを併せ持つシンバイオティクス食品である可能性が示唆された。
引用元:中川良二,他(2005)日本食品科学工学会誌第52巻第3号2005年3月,「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」[pdf]
大豆由来の豆乳には、骨粗鬆症や抗がん作用などの効果が期待されている、大豆イソフラボンが多く含まれていますが、大豆イソフラボンが腸内で吸収されるためには「アグリコン」という物質に加水分解されなければなりません。
乳酸菌HOKKAIDO株を利用して製造された発酵豆乳(豆乳ヨーグルト)では、発酵時間に比例して、大豆イソフラボンがアグリコンへ変化しやすくなるため、一般的な豆乳を摂取するよりもさらに、大豆イソフラボンの効果が高まると考えられています。
また、乳酸菌HOKKAIDO株によって作られた豆乳ヨーグルトでは、大豆イソフラボンのアグリコン化が進んでいるだけでなく、ブドウ糖が発酵によって消費されるので低カロリー化が促されており、さらにアレルゲンタンパク質が低減されることで、大豆アレルギーの症状緩和にも期待できる点は重要でしょう。
余分なカロリーを抑えつつ、健康に役立つシンバイオティクス食品としての機能を保ちながら、食物アレルギーのリスクも下げられるなど、乳酸菌HOKKAIDO株と豆乳の融合には、数多くの企業や研究機関が注目しています。
豆乳を原料とするヨーグルト様の乳酸発酵食品の製造に適しており、単一菌株で官能的に優れた発酵豆乳を造ることができる。研究の進展とともに明らかになった健康機能性や商標としての魅力(道総研は「HOKKAIDO株」を商標登録している)などから、北海道産原料にこだわる食品メーカー等の注目を集め、活用の形が多様化している。
引用元:公益社団法人発明協会,平成30年度北海道地方発明表彰「文部科学大臣賞:乳酸菌HOKKAIDO株(特許第3925502号)」
乳酸菌HOKKAIDO株の効果・効能については、道総研を中心とした各機関から研究データが発表されています。
HOKKAIDOはpH2.5では生菌数が減少したが、pH3では培養4時間まで生菌数の減少が見られなかった。この人工胃液鯛制度はL. acidophilusには及ばないがL. caseiやL. gasseriを上回っており、HOKKAIDOが胃液に対して高い耐性を有することが示唆された。
引用元:中川良二,他(2005)日本食品科学工学会誌第52巻第3号2005年3月「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」[pdf]
HOKKAIDOは人工腸液中において胆汁末を含まない対照液中と同様に、死滅することなく、むしろ増殖し、7時間目までにその菌数は約100倍となった。その後、27時間目までほぼ同程度の菌数で推移した。
引用元:中川良二,他(2005)日本食品科学工学会誌第52巻第3号2005年3月「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」[pdf]
胃液に耐性を持っている上、腸液の中ではむしろ増殖するという乳酸菌HOKKAIDO株の性質は、食品として摂取されればそのまま生きて腸へ届き、そこで活発に働くプロバイオティクスとしての有効性を示唆しているといえるでしょう。
しかも、乳酸菌HOKKAIDO株の胃液耐性はカゼイ菌やガセリ菌を上回っているという点も重要です。
我々は良く漬かった過程の漬物からヒト腸上皮培養細胞株Caco-2に対して付着活性を有する乳酸菌を分離し、Lactobacillus plantarumと同定するとともに、本菌株をL. plantarum HOKKAIDOと名付けた。さらに、HOKKAIDOが大腸菌O-157のCaco-2細胞付着を抑制できることを示した。
引用元:中川良二,他(2005)日本食品科学工学会誌第52巻第3号2005年3月「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」[pdf]
仮に病原性大腸菌O-157を含んでいる食品を摂取してしまったとしても、乳酸菌HOKKAIDO株を日常的に摂取していれば、O-157が大腸で定着することを阻害して、食中毒の症状を予防できたり、また発症しても比較的軽症に抑えられたりするかも知れません。
乳酸菌HOKKAIDO株は、ヒトの体内で免疫関連因子サイトカイン(IL-8、IL-12、IP-10など)を誘導して、免疫機能の正常化や活性化に寄与することも示唆されています。
171人の成人を対象として、乳酸菌HOKKAIDO株を配合したヨーグルトの継続摂取による効果を、二重盲検法によって調査したところ、乳酸菌HOKKAIDO株によって免疫機能が活性化され、ストレスマーカーとして知られている好中球/リンパ球比の値が改善することが示唆されました。
乳酸菌HOKKAIDO株の特性として、動物性食材である牛乳などに対して使われた場合、食材内で増殖しにくく発酵力が弱まるものの、野菜や果物、穀類といった食物原料に対しては、優れた発酵力を発揮するというものが挙げられます。そのため、にんじんジュースや酒粕発酵酒、調味料など、様々な食品の製造・加工に活用されているそうです。
また、生乳ヨーグルトに使われることもあるようです。
植物性素材に対して優れた発酵能を有していることから、酒粕発酵酒、飲みやすいにんじんジュース、特徴的な酸味のトマトジュースや調味料など植物性食品に用いられるほか、生乳ヨーグルトに用いられるなど、活用の形が多様化しています。
引用元:地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)「実用化実績のある特許技術の活用~北海道ブランドの乳酸菌HOKKAIDO株~」[pdf]
本菌で発酵された豆乳はヨーグルト状になり、そのpH、乳酸菌数、乳酸量の値から、HOKKAIDOが豆乳ヨーグルトの乳酸菌として十分に利用できることが明らかとなった。
また、本豆乳ヨーグルトは、大豆由来のラフィノースシリーズオリゴ糖を豊富に含有することから、腸内においてビフィズス菌を増殖しうる可能性が示唆された。
引用元:中川良二,他(2005)日本食品科学工学会誌第52巻第3号2005年3月「Lactobacillus plantarum HOKKAIDOを用いた豆乳ヨーグルトの製造およびその機能性」[pdf]
乳酸菌HOKKAIDO株は、それ自身がプロバイオティクス乳酸菌としての機能を維持したまま、プレバイオティクス食品として有用な豆乳や、その他にも様々な食材を発酵させて、その効果を強化することが可能です。そのため、乳酸菌HOKKAIDO株による発酵食品には、シンバイオティクス食品としての価値が期待されています。
乳酸菌HOKKAIDO株は、北海道の農家でじっくりと漬けられていた漬物から分離されました。
また、漬物をはじめとする日本の伝統的な発酵食品は、かねてより日本人の長寿の理由として指摘されており、乳酸菌HOKKAIDO株においても健康機能に関して調べられた結果、プロバイオティクス乳酸菌であることが判明しました。
その後、乳酸菌HOKKAIDO株は北海道ブランドの乳酸菌として、道総研を中心とした研究機関で食品への応用が研究・開発され、豆乳ヨーグルトの製造などに至ったのです。
豆乳ヨーグルトは、2004年に特許が出願され(2009年特許登録)、2008年には「HOKKAIDO株」が商標登録されるなど、北海道発のシンバイオティクス食品として注目されています。
乳酸菌HOKKAIDO株は一般に常食されていた漬物を由来とする植物性乳酸菌であり、またプロバイオティクスとしても認められていることから、安全性は高いといえるでしょう。
また、乳酸菌HOKKAIDO株を活用した豆乳ヨーグルトやその製造法は、経済産業省特許庁の審査に合格して特許技術として登録されています。
道総研では、どさん子乳酸菌である乳酸菌HOKKAIDO株を積極的に活用した商品ブランド化が進められており、道内企業を中心とした数十社との間で、乳酸菌HOKKAIDO株に関する特許の実施許諾契約が締結されているそうです。
そして、それぞれの企業が乳酸菌HOKKAIDO株を利用して開発・製造している商品には、平成22年度「北海道新技術・新製品開発賞」奨励賞を受賞した「にんじんジュース」や、田中酒造(株)が開発して平成23年度の同賞奨励賞を受賞した「酒粕発酵酒:楽酒美」、北海道食品機能性表示制度(ヘルシーDo)認定商品である北海道乳業の「生乳ヨーグルト ヘルシーDo」など、様々なものがあり、気軽に乳酸菌HOKKAIDO株を楽しめるようになっています。
その他、仔牛用の粉ミルクやサプリメントとして、雪印種苗(株)の「ゆきみるく」や「こうし応援団」といった、家畜のための商品開発も行われているようです。
また、食品としてだけでなく、ハンドクリームの素材として使われる発酵豆乳の加工にも有効活用されており、オホーツクビーンズファクトリー(オホーツク農業協同組合連合会)が開発した「ソイミルクハンドクリーム」も、乳酸菌HOKKAIDO株商品の1つといえるでしょう。
どんなに素晴らしい効果が報告されている菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。
もちろん、ここで紹介した乳酸菌HOKKAIDO株についても同様で、この菌が合うかどうかは、実際に摂取してみて、自分の体調の変化を確認してみるしかないのが現状です。
世の中に存在する乳酸菌・ビフィズス菌には数えきれないほどの種類があり、商品化されているものだけでも膨大な数があります。そのため、自分と相性の良い菌を見付けるためには、それなりの覚悟をもって、根気よく挑まなくてはなりません。
しかし、自分にピッタリの菌を見付けるのは、それだけの価値があること。一生をかけて、理想の乳酸菌を追求し続けるくらいの気持ちで挑むことが大切です。摂取せずにどんな菌が合いそうか、なんて考えても意味はないので、まずはどんな菌があるのかを知り、興味のあるものから順にかたっぱしから試していきましょう。
ただし、一部には例外といえる成分もあります。たとえば「乳酸菌生成エキス」という成分は、最初から自分が持っている乳酸菌を育てるためのものです。
そもそも乳酸菌を摂取するのは、自分の腸内で善玉菌を増やして腸内環境を整えることが目的。つまりこの成分を摂れば、自分にピッタリの乳酸菌を摂取するのと同様の効果が得られるというわけです。菌との相性を気にする必要がないため、手っ取り早く健康になりたいという方は、こういった成分を探した方が良いかもしれません。
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?