ここでは、乳酸菌研究の老舗として知られるカルピス株式会社が開発した「乳酸菌CM4」(正式名称は「ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株」)について詳しく解説します。ヒトを対象とした臨床試験により、降圧作用や睡眠・生活の質の改善、保湿効果などが確認された乳酸菌です。高血圧の改善を目指す方に向けたCM4配合印象「アミール」は、テレビCMでもおなじみでしょう。
乳酸菌CM4株は、飲料業界の大手でもあるアサヒとカルピスの共同会社「アサヒカルピスウェルネス」が開発・商品化している乳酸菌。この菌はペプチドを作り出す力が優れており、さまざまな個性を持つペプチドを作り出すことができます。
発酵乳の中には、乳酸菌が発酵する過程で作り出した「ペプチド」と呼ばれる物質が含まれているのですが、ペプチドにはさまざまな種類があり、それぞれの特性を持っています。乳酸菌CM4株から生み出されるラクトトリペプチド(LTP)には、健康効果が期待できるものがあることが研究によってわかってきました。その代表的な働きとしては、下記のようなものがあげられます。
高血圧で通院中の患者30名を被験者とし、CM4株から生まれるラクトトリペプチド(LTP)を配合した飲料を8週間にわたって飲んでもらいました。結果、収縮期血圧が平均で14 mmHg低下。また、降圧剤の服用をしていない軽度の高血圧感謝32名を被験者とし、同様の臨床研究を行ったところ、収縮期血圧が平均15 mmHg低下しました。
健常な高齢者30名を被験者とし、乳酸菌CM4株を配合した飲料を飲むグループと、未発酵乳を配合した飲料を飲むグループとに分け、それぞれ該当する飲料を3週間にわたって飲んでもらいました。実験後のアンケート調査では、乳酸菌CM4株を配合したグループのほうが、もう一方のグループに対して顕著な「睡眠・生活の質」の改善が見られました。
ヒトを対象に、10~12月の期間と、2~4月の期間に分け、それぞれで乳酸菌CM4株を継続的に摂取する試験を行いました。その結果、いずれの期間においても、肌の角層の水分量が有意に増加しました。
乳酸菌CM4株の作用については、カルピスによるヒトを対象とした臨床試験が行われています。ここでは、乳酸菌CM4株の代表的な作用とされる「降圧作用」と「睡眠・生活の質の改善」について、同社の研究論文を引用しながら詳しく解説します。
数々の乳酸菌の研究で知られるカルピスは、脳梗塞や心臓疾患の予防の可能性を模索する過程の中で、それら病気の重大な要因となるメタボリックシンドロームの予防に関する研究に着手。ヒトを対象とした一連の研究の中で、乳酸菌が持つ降圧作用を確認しました。
高血圧症に該当する投薬治療者に対する効果確認試験で,30名と少ない人数ながら,2群に分けて,L. helveticus発酵乳95 mLを含む発酵飲料または,そのプラセボ飲料95 mLを8週間にわたり,毎日継続的に摂取させた結果,L. helveticus発酵乳群では,4週目以降において,投与前に比べて有意な血圧降下作用が確認された.
(中略)
さらに,少しでも発酵乳内の,VPPとIPP生産性を高めて,最終製品への加工適性を高めたり,少容量化を図る目的で,タンパク分解能が強いL. helveticus株の単離を試み,乳タンパク質の分解能に優れた,CM4株の分離に至った.CM4株は,従来のVPPとIPPの生産性が高い株に比べても,2倍程度に両ペプチドの生産性が高い株であることが確認され,発酵乳の摂取量を半分程度にしても,同程度の血圧降下作用が期待できることとなった.
この研究では、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株の酵素が作りだす「ラクトトリペプチド(LTP)」が、血圧を上昇させる働きを持っている「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」を阻害するという結果が確認されました。この「ラクトトリペプチド」とは、発酵中に乳たんぱく質が分解されて作られた天然成分、「Val-Pro-Pro(VPP)」と「Ile-Pro-Pro(IPP)」と呼ばれる2つのペプチドからなる物質。
この研究結果をもとに、高血圧改善に役立つ乳酸菌飲料として「アミールS」が発売されました。
24時間稼働社会を背景に、生体リズムの崩れから睡眠の質の低下が叫ばれている現代。カルピス株式会社基礎研究フロンティアラボラトリーでは、大阪大学保健センター、大阪大学医学研究科精神医学教室との共同研究で、乳酸菌CM4株を用いた、睡眠の質(=QOS)と生活の質(=QOL)に関する試験を行いました。
試験の内容としては、健康な高齢者30歳を15名ずつ2つのグループに分け、乳酸菌ラクトバチルス・ヘルベティカス CM4株の発酵乳を飲用するグループと未発酵乳をそれぞれ1日100g、3週間飲用して睡眠状態や生活状態が変化するかを測定するというもの。試験の結果は以下の通りでした。
試験の結果、「ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株発酵乳」(発酵乳)飲用、未発酵乳飲用ともに、前対象期間(飲用前)と比較して、各測定指標が改善する方向でしたが、その効果は「ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株発酵乳」(発酵乳)のほうがより顕著でした。
(1)アクチグラフによる計測結果(客観的指標)
発酵乳、未発酵乳とも、飲用することにより前対象期間(飲用前)に比べて睡眠状態が良くなる傾向が認められましたが、その効果は未発酵乳に比べ、発酵乳のほうが顕著でした。『睡眠中の目覚めの回数』は、発酵乳飲用時で有意に減少していました(図1)。
(2)QOS(睡眠の質)に関する調査結果(自覚的指標)
発酵乳飲用により、『睡眠中の諸症状』(寝とぼけ行動、足のむずむず など)のスコアが改善する傾向が認められました(図2)。
(3)QOL (生活の質) に関する調査結果(自覚的指標)
発酵乳飲用により、『全体的健康感』のスコアの有意な向上が認められました (図3)。
さらに、健康な高齢者の中でも、前対象期間(飲用前)で睡眠状態があまり良好でなかったグループに絞って解析すると、発酵乳飲用により、アクチグラフ解析やQOS、QOL調査結果において、発酵乳の継続飲用により、より明確な改善効果が認められました。
引用元:アサヒカルピスウェルネス「乳酸菌Lactobacillus helveticus CM4株発酵乳の継続飲用による睡眠・生活の質の改善効果を確認」
上記(2)(3)については、被験者のアンケート調査をデータ化したものです。ダブルブラインドクロスオーバー(試験成分を飲んでいるのか偽の成分を飲んでいるのか、被験者には分からない形での試験)で試験が行われているため、アンケート結果の信憑性は高いものと思われます。
さらに、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4の発酵乳には、生体リズムを調節する「メラトニン」の調節機能が認められています。下記の研究では、夜型社会など近年の環境変化によって引き起こされている生体リズムの乱れや睡眠の質低下、それに伴う生活の質の低下などの改善に役立つ可能性が示されています。
基礎研究フロンティアラボラトリーでは、岡山大学薬学部森山芳則教授、就実大学薬学部坪井誠二教授との共同研究により、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株の発酵乳を動物に長期間飲用させると、夜間において、生体リズムを調節するホルモンである脳内松果体メラトニン量の増加と脳内松果体メラトニンを合成する酵素であるN-アセチルトランスフェラーゼの増加が認められました。
引用元:アサヒカルピスウェルネス「乳酸菌Lactobacillus helveticus CM4株発酵乳の継続飲用による睡眠・生活の質の改善効果を確認」
また、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株の発酵乳が、皮膚細胞での保湿成分とメラニン生成を抑制させるという可能性があります。
表皮細胞にラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株の発酵乳を添加して培養すると、天然保湿成分であるフィラグリンの増加と表皮セラミド(保湿成分)を合成する酵素(セリンパルミトイルトランスフェラーゼ)の増加がみられました。
同じように、皮膚に存在する黒色の色素であるメラニンを産生する細胞(メラノーマ細胞)に、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株の発酵乳を添加して培養すると、何も添加しなかった場合に比べて、細胞のメラニン産生を抑制していました。また、メラニンを合成する酵素の一つであるチロシナーゼの酵素活性を抑制しました。
引用元:アサヒカルピスウェルネス「乳酸菌Lactobacillus helveticus CM4株発酵乳の継続飲用による睡眠・生活の質の改善効果を確認」
また、別の研究結果から、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株で発酵させた発酵乳(LH発酵乳)には、肌に潤いを与え、ターンオーバーを促してくれるたんぱく質を増やす効果が期待できることがわかっています。
LH発酵乳ホエイを肌の表皮培養細胞に添加した時に、表皮細胞中のフィラグリン、インボルクリンのたんぱく質量、トランスグルタミナーゼ-1の活性が増加することを確認しました。フィラグリンは、皮膚の天然保湿成分の元になるたんぱく質であり、インボルクリンは、表皮細胞が角化する際に必要になるたんぱく質です。
また、トランスグルタミナーゼ-1は、インボルクリンなどを結合させる酵素で、正常な肌構造を維持し、肌のターンオーバーを促進する働きがあります。フィラグリンとインボルクリン、トランスグルタミナーゼ-1の活性が増加したことから、LH発酵乳ホエイを肌に塗ると、肌にうるおいを与え、肌構造を維持し、細胞のターンオーバーを促進する効果が期待できます。
引用元:アサヒカルピスウェルネス「「カルピス」由来の乳酸菌から生まれた発酵乳ホエイに肌にうるおいを与え、肌構造を維持し、ターンオーバーを促進させる因子への効果があることを発見」
どんなに素晴らしい効果が報告されている菌であっても、それが誰にでも効くというわけではありません。菌と腸内環境には相性があり、自分の腸に合っていない菌を摂取しても、あまり意味がないのです。
もちろん、ここで紹介した乳酸菌CM4株についても同様で、この菌が合うかどうかは、実際に摂取してみて、自分の体調の変化を確認してみるしかないのが現状です。
世の中に存在する乳酸菌・ビフィズス菌には数えきれないほどの種類があり、商品化されているものだけでも膨大な数があります。そのため、自分と相性の良い菌を見付けるためには、それなりの覚悟をもって、根気よく挑まなくてはなりません。
しかし、自分にピッタリの菌を見付けるのは、それだけの価値があること。一生をかけて、理想の乳酸菌を追求し続けるくらいの気持ちで挑むことが大切です。摂取せずにどんな菌が合いそうか、なんて考えても意味はないので、まずはどんな菌があるのかを知り、興味のあるものから順にかたっぱしから試していきましょう。
ただし、一部には例外といえる成分もあります。たとえば「乳酸菌生成エキス」という成分は、最初から自分が持っている乳酸菌を育てるためのものです。
そもそも乳酸菌を摂取するのは、自分の腸内で善玉菌を増やして腸内環境を整えることが目的。つまりこの成分を摂れば、自分にピッタリの乳酸菌を摂取するのと同様の効果が得られるというわけです。菌との相性を気にする必要がないため、手っ取り早く健康になりたいという方は、こういった成分を探した方が良いかもしれません。
2018年9月、ドイツで行われた世界系商品学術大会において、アサヒカルピスウェルネスは、乳酸菌CM4株による化粧品素材への応用の可能性について発表しました。
下記の報告に登場する「LH発酵乳ホエイ」とは、乳酸菌CM4株によって発酵させた物質を指しています。
LH発酵乳ホエイを肌の表皮培養細胞に添加した時に、表皮細胞中のフィラグリン、インボルクリンのたんぱく質量、トランスグルタミナーゼ-1の活性が増加することを確認しました。フィラグリンは、皮膚の天然保湿成分の元になるたんぱく質であり、インボルクリンは、表皮細胞が角化する際に必要になるたんぱく質です。
また、トランスグルタミナーゼ-1は、インボルクリンなどを結合させる酵素で、正常な肌構造を維持し、肌のターンオーバーを促進する働きがあります。フィラグリンとインボルクリン、トランスグルタミナーゼ-1の活性が増加したことから、LH発酵乳ホエイを肌に塗ると、肌にうるおいを与え、肌構造を維持し、細胞のターンオーバーを促進する効果が期待できます。
引用元:アサヒカルピスウェルネス「『カルピス』由来の乳酸菌から生まれた発酵乳ホエイに肌にうるおいを与え、肌構造を維持し、ターンオーバーを促進させる因子への効果があることを発見」
2019年5月現在、乳酸菌CM4株由来の化粧品は、まだ販売されていません。すでに複数のメーカーから乳酸菌の力に注目した化粧品が販売されていますが、乳酸菌の老舗であるカルピスからCM4株に由来する化粧品が販売されれば、業界で大きく注目されることは間違いないでしょう。
乳酸菌CM4株が用いられている商品といえば、カルピス株式会社から販売されている特定保健用食品飲料「アミールS」が有名です。このアミールSは、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株によって作り出されたペプチド「ラクトトリペプチド」が要となる製品。このペプチドの働きにより、血圧を上昇する酵素を阻害する働きを抑える作用が期待されています。
乳酸菌CM4から生まれるラクトトリペプチド(LTP)を配合した乳酸菌飲料。血圧が高めの方に推奨する機能性関与食品です。毎日の生活に取り入れやすいよう、さわやかな風味に仕上げています。
乳酸菌CM4から生まれるラクトトリペプチド(LTP)を主成分とした機能性関与食品。血圧が高めの方に向けたサプリメントです。
主要成分としてラクトトリペプチド(LTP)を配合した機能性関与食品。日常で手軽に血圧対策をして欲しいとの思いから、1日3粒の摂取を目安としたサプリメントとして開発された商品です。
管理人:蝶野ハナ
乳酸菌と人との関係、菌株ひとつひとつの個性、数多くの研究データ……乳酸菌って、知れば知るほどスゴいんです。私たちにとって最も身近な細菌について、もっともっと深く知りたくないですか?